地方メーカーから大手メーカー、そして総合商社へ。僕はこれまで2回、転職をしてきました。年収も、転職のたびに大きく上がっています。ただ、今こうして振り返ってみると、一番「転職して良かった」と思っているのは、年収でも会社の規模でもありません。地元に戻って、家族と一緒に暮らせていることです。
このサイトを「わらしべ商社マン」という名前で始めたのも、そのあたりの実感がベースになっています。一段ずつ、自分が納得できる形でキャリアを積み上げていく。そのための判断材料になれば、というのがこの記事の目的です。まずは、僕自身の話から始めさせてください。
2回転職した僕が、一番「良かった」と思っていること
最初に、身も蓋もないことを書いてしまいます。1回目の転職で、年収はほぼ倍になりました。2回目の転職でも、以前から目標にしていた年収のラインを現実的に目指せる環境に移ることができました。数字だけ見れば、転職は間違いなく「成功」だったと思います。
でも、いま一番良かったと思っているのは、そこではありません。2回目の転職で地元に戻り、家族と一緒に暮らせるようになったこと。これが、僕にとっては一番大きな変化でした。年収が上がったことも、仕事の規模が大きくなったこともうれしいのですが、振り返ってみると、キャリアアップそのものよりも、自分が暮らしたい場所で生活できていることの方が、今の自分にとっては大事なんだと気づきました。
だからこのサイトでは、「とにかく年収を上げましょう」というような話はしません。転職は、あくまで自分が望む人生に近づくための手段の一つだと思っています。その考えに至るまでの過程を、順番にお話しします。
僕のキャリアは、最初から計画通りだったわけではない
今でこそこうしてキャリアの話を書いていますが、僕自身、最初からプランがはっきりしていたわけではありません。むしろ、行き当たりばったりだった部分もかなりあります。
「潰しが効きそう」で経理を選んだ
学生時代に留学をしていたこともあり、英語は人よりは使える方でした。将来的には「世界で通用する人材になりたい」という思いも、当時から持っていたと思います。ただ、英語が話せるというだけで海外で特別な価値になるわけではないでしょうし、働くにはビザの問題もあります。それなら、まず日本でしっかり実績や専門性を身につけてから海外を目指した方がいいんじゃないか。そう考えていました。
職種を選ぶときは、正直そこまで深く考えていませんでした。「潰しが効きそう」という理由で経理を志望したのを覚えています。当時「経理を極めたい」という強い意志があったわけではありません。会社選びについても、大手企業を含めていろいろ受けはしたものの、今振り返るとそこまで深く考えていなかったと思います。最終的に地方メーカーへ入社し、経理配属は希望通りでした。結果的に、そこから今まで経理・管理系のキャリアを歩むことになります。
地元の同期を見て感じた焦りと、なんとなくの不安
「このままでいいのかな」と感じ始めたのは、入社してしばらく経った頃です。理由は一つではありませんでした。会社の将来性について不安を感じる出来事もあり、このままでいいのかと考えるようになりました。
それに加えて、周りの環境も影響していたと思います。同期や周囲を見ていると、良くも悪くも地元で穏やかに働き続ける未来が見えてきました。それ自体が悪いことだとは思いませんが、自分が目指したいものとは少し違うと感じていました。学生時代の友人には上場企業で働いている人も多く、正直、焦りや劣等感のようなものもあったと思います。一方で、「今の自分の英語力や経験は、もっと大きな環境で活かせるんじゃないか」という感覚もありました。この2つが重なって、転職を意識するようになりました。
1回目の転職|もっと大きな環境で自分を試したかった
1回目の転職で、一番大きかった動機は、正直に言うと年収でした。ただ、東京で働くこと自体が目的だったわけではありません。今の生活から一度抜け出したかった、というのが正直なところです。当時の環境から離れて、自分をもっと大きな場所に置いてみたい、という気持ちが強かったのだと思います。
受けたのは、気になっていた1社だけ
転職先として気になっていたのが、大手メーカーでした。経理という仕事は、会社が変わっても通用する「共通言語」のような感覚があります。自分の英語力や経験を、より大きな環境で試せるんじゃないか。そう考えて、1社だけ応募しました。
何十社も応募したわけではありません。「ここを受けてみて、ダメだったら今の会社に残ればいい」という温度感で、何がなんでも辞めたいわけではなかったんです。結果的に選考は順調に進み、転職することになりました。
「辞めると決めてから始めるものではない」という今の考え
今振り返ると、この経験から学んだことがあります。転職は、必ずしも「今の会社を辞めると決めてから始めるもの」ではないということです。今の会社に残る、という選択肢を持ったまま、自分がどこまで通用するのかを試してみる。そういう転職活動の使い方もあっていいと思っています。
年収は上がった。でも、転職ですべてが解決したわけではなかった
福利厚生や制度も含めて「待遇」なんだと知った
1回目の転職で、年収はほぼ倍になりました。正直な感覚を言うと、「やっと人並みになれたかな」というのが一番近かったです(笑)。生活が派手になったというより、そのくらいの実感でした。
ただ、大手メーカーで実際に働いてみて驚いたのは、年収だけではありませんでした。福利厚生や各種制度、働き方の選択肢まで含めて、「会社が社員に用意している環境」も待遇の一部なんだと知りました。転職前は正直、年収の数字ばかり見ていたので、これは働いてみて初めて分かったことです。社員数も前職とはまったく規模が違って、同じ会社なのに知らない人だらけという感覚も新鮮でした。以前の会社なら大きな金額だと感じていた「億」という数字が、大手メーカーでは資料の中で小数点のように扱われることもあって、仕事の規模そのものが前職とはまったく違うんだと実感しました。
残業、そして人間関係という新しい悩み
一方で、想定していなかったこともありました。仕事はかなり忙しく、残業が当たり前という日も珍しくありませんでした。年収や福利厚生は良くなった分、仕事に使う時間も増えたんです。
もう一つ戸惑ったのが、人間関係でした。組織が大きい分、上司へのアピールや社内政治を強く意識する人も多く、そういう空気は自分にはあまり合わないと感じていました。年収、福利厚生、仕事の規模は魅力的でしたが、「大企業に転職すればすべて良くなるわけではない」と、この時期に実感しました。
2回目の転職|逃げたい。でも、逃げるなら前に進みたかった
「逃げ出したい」気持ちと「前に進みたい」気持ち、両方あった
2回目の転職を考えた一番の理由は、地元に戻りたいという気持ちでした。コロナ禍もあって、家族のことや暮らし方について考える機会が増え、その思いがどんどん強くなっていきました。
正直に言うと、逃げ出したい気持ちも、当時は確かにありました。ただ、逃げるなら、前に進みたい。単純に今の環境から離れるためだけの転職にはしたくなかったんです。どうせ地元に戻るなら、キャリアとしても一段上に進みたい。逃げではなく、ステップアップと言える転職にしたい。そう考えるようになりました。
商社を選んだ理由——自分の強みをどう組み立てたか
そこで目標にしたのが、総合商社でした。自分の強みとして意識していたのは、大きく4つです。これまで積み上げてきた経理・管理系の実務経験、留学時代からの英語力、大手メーカー時代の海外との業務経験、そして現場の人とコミュニケーションを取りながら仕事を進める力。経理というと数字だけを見ている印象があるかもしれませんが、実際には現場の人と話しながら状況を理解して、数字に落とし込んでいく場面が多くあります。専門性だけでなく、その組み合わせで評価してもらえるんじゃないか、と考えていました。
今回も、受けたのは1社だけだった
2回目の転職でも、応募したのは1社だけでした。理由は1回目と同じで、「明確なステップアップにならない転職はしたくない」と思っていたからです。ただ、選考自体は1回目よりも明らかに重く、面接も複数回、Webテストもありました。それでも、「とにかく今の会社を辞めたい」ではなく「ここならキャリアアップになるから挑戦する」という気持ちで受けていたので、精神的には比較的落ち着いていられたと思います。
内定をもらったときは、まず地元に戻れることが嬉しかったです。収入の面でも、これまで思い描いていた水準に近づける手応えがあったことは、素直に後押しになりました。仕事だけでなく、暮らす場所まで含めて希望に近づけた転職だったので、自分の中ではかなり納得感がありました。
2回転職して、キャリアアップの意味が変わった
1回目は「年収」、2回目は「暮らし方」が軸だった
同じ「転職」でも、2回を振り返ると、判断の軸はまったく違っていました。1回目の転職で一番大きかったのは、年収でした。もっと大きな環境で自分を試したい、という気持ちが強かったんです。それに対して2回目は、年収よりも「どこで、誰と暮らすか」という部分が大きな軸になっていました。
会社の規模を上げても、なくならなかったもの
総合商社に入って感じたのは、想像していたよりもずっと人当たりが良く、和気あいあいとした雰囲気だったことです。大手メーカー時代と比べて現場との距離も近く、海外もぐっと身近に感じられるようになりました。
ただ、大きな組織である以上、社内政治や上司へのアピールを意識する人はやはりいます。会社が変わったからといって、そういう部分が完全になくなるわけではないんだな、というのは、2社目でも3社目でも感じたことでした。人間関係の悩みは、結局どの会社に行ってもある程度は残るものだと、今は思っています。
転職を考える前に、まず自分の「相場」を知る
2回の転職を通してやって良かったと思うのは、いきなり動く前に、自分の「市場価値の相場」を確認したことです。転職を考え始めた頃は、転職ブログや体験談をかなり読み込みました。「このくらいの年齢で、このくらいの経験がある人なら、こういう会社に転職できるのか」という事例を見ながら、自分の経歴やスキルと比べていたんです。
そのうえで、転職先に求める条件もはっきり決めていました。「今の会社から明確にステップアップになる会社でなければ、無理に転職する必要はない」という方針です。応募先を広げるよりも、「この会社なら今より一段上に行ける」と思える企業だけを見るようにしていました。今は、年収や勤務地だけでなく、会社のIR情報や役員の発言まで見るようにもなったのですが、そのあたりはまた別の記事で詳しく書きたいと思います。
転職は手段。入社してから何をするかの方が大事
2回の転職を振り返って、反省もあります。もっと会計や税務、財務まで含めて、経理という仕事を体系的に勉強しておけば良かった、というのは正直な思いです。実務経験があればなんとかなると思っていた部分もありましたが、中途入社は新卒のように一から丁寧に教えてもらえるとは限りません。マニュアルが十分に整っていなかったり、業務の背景まで説明してもらえなかったりすることもあって、自分で調べながら、バラバラに入ってくる知識の「点と点」をつないで理解していく必要があります。基礎知識がしっかりしているほど、新しい会社や新しい業務への適応は速いんだと、後になって気づきました。
だからこそ、会社を変えることそのものより、自分の専門性を高めることの方が、長い目で見れば大事なんだと思うようになりました。転職は環境を変えてくれますが、その環境でちゃんとやっていけるかどうかを支えるのは、結局のところ自分の中身です。
そのうえで、今の自分が一番大事だと思っているのは、「転職はあくまで手段だ」ということです。会社を変えたからといって、それだけで自分自身が大きく成長するわけではありません。「こういう仕事がしたい」「こういう暮らしがしたい」「今の会社では実現しにくい」。だから会社を変える。それが転職だと思っています。
大事なのは、転職先に入ることではありません。入社はゴールではなく、スタートです。新しい環境で何を学び、何を経験し、どんな価値を出していくのか。環境は転職によって変えられますが、それを活かして成長できるかどうかは、結局自分次第です。だから僕は、転職そのものを成功とは考えていません。転職した先で活躍し、自分が目指していた人生に少しでも近づけたときに、初めて「良い転職だった」と言えるんだと思っています。
まとめ|一段ずつ、自分が望む人生に近づけばいい
ここまで、僕自身の2回の転職を振り返りながら書いてきました。年収は2回とも上がりましたし、会社の規模も大きくなりました。それでも、今一番「良かった」と思っているのは、地元で家族と暮らせていることです。キャリアアップというと、つい年収や役職、会社の大きさで測ってしまいがちですが、僕にとっての答えは、少し違うところにありました。
会社を変えれば自動的にキャリアアップするわけではありません。大事なのは、自分がどんな人生を望んでいるのかを先に考えて、そのために必要であれば環境を変える、という順番だと思っています。そして、転職先でどう活躍するか。そこが一番大事なところです。
このサイトでは、これから僕自身の経験をベースに、大企業への転職や商社への転職、経理というキャリアの活かし方について、もう少し具体的に書いていく予定です。今のキャリアに迷いがある方にとって、判断材料の一つになれば嬉しいです。